晶葉とライラの夏休み
晶葉が気がつくと、セミが鳴いていた。
「ここは一体どこなんだー!」
「ここは田舎の保養所でございますよー」
「ライラ?」
「はい。そうなのですよー」
叫びに答えたのはのんびりした声だった。いつも晶葉の助手を務めてくれるライラ。いや、助手という訳では無いのだが笑ってくれているだけで上手くいく気がする晶葉だった。
「で、なんで私はここに居るんだ?」
「ぷろでゅーさー殿が連れて来てくれたからでございますよー」
「はあ!?」
素っ頓狂な声が上がった。ライラはにっこり笑いながら言った。
「この一週間、ずっと休まずお薬飲んで無理矢理研究進めてましたから体調が心配と相談したのでございます。そしたら温泉もあるからとここに運んでいただけましてー」
「……まて?」
「?」
「ここに運んだ。そう言ったか?」
「そうなのですよー。ぷろでゅーさー殿は力持ちで軽々とお姫様抱っこで晶葉さんを……」
「うわあああああああああああ!」
あまりの恥ずかしさに顔を沸騰させて晶葉は芋虫のように転がった。
「な、なんで、起こしてくれなかったんだ、ライラ……」
「起こそうとしたのですけどぷろでゅーさー殿が『ぐっすり眠ってるから寝かせといてやろう』と仰ってたのですよー」
晶葉は頭を抱えて天を仰いだ。ライラはニコニコしながらそれを見ている。
「……まあいい、それならせっかくだから風呂に行くか」
「ライラさんもご一緒するのですよー」
まだ日は高いとはいえ、浴場は日差しが当たっているものの所々が日陰になっていてそこまで温度は高くなさそうだった。
晶葉は白衣と服をストンと脱いだ。凹凸のない身体だ。もちろん研究には邪魔になるし、大きい胸にも興味なかった。でも、ライラとよく一緒にいるナターリアなんかを見ると……歳も変わらないのにどうして、とかプロデューサーの好みはどうなんだろう、などと考えてしまう。研究ばかりだしレッスンも屋内が中心なので日焼けはない。むしろ肌は白くて綺麗な方である。
「まあ、満更捨てたもんじゃないよな」
と一人言を言いながら扉を開ける。そこに女神が居た。磨きあげられた肌は褐色の中に清楚さを秘めており、また、滑り落ちる珠のような汗がえも言われぬ艶めかしさを出している。身体の凹凸的には晶葉とそんなに変わらないのに色気が全く違う。また、サラリと長い金髪が落とす彩りはなお一層褐色の肌とコントラストを作り美を引き立たせている。
「お待ちしておりましたですよー」
「あ、ああ、ゆっくりしよう」
一刻も早くと乳白色の湯船に浸かる二人。程よい温度に調節された湯は二人の疲れをゆっくりと湯船に沈めていった。
「気持ちいいな」
「気持ちいいですねー」
しばらく二人無言だった。
「あ、そう言えば……」
ライラは脱衣場の方に戻ると手にアイスキャンディーを持って戻ってきた。
「お風呂で食べるアイスは美味しいとぷろでゅーさー殿が仰ってたのですよー」
ニコニコしながらアイスを差し出すライラ。晶葉は苦笑しながらそれを受け取った。お湯で火照った身体がアイスの冷たさで中和されていく。心地よい感覚に二人は包まれた。
「美味いなー」
「美味しいですねー」
お風呂から上がる頃にはすっかり日も沈み、涼やかな風が吹いて虫が合奏をしていた。
「こういう風流なのもいいもんだな」
「はい、日本のこういう所好きなのです!」
二人は縁側に出てゆっくりと目を閉じた。満月が照らし出す世界に虫の声が響いてくる。とても心地よい。
「帰ったらお月見ロボでも作るかな」
「晶葉さんはいつでも発明なのですねー」
「それが私のアイデンティティだからな!」