2020-01-01から1年間の記事一覧

狐瓜町商店街の不動産屋さん

「いらっしゃい」 その日、最初のお客は金髪碧眼の少女とメイドだった。 うちは商店街の端っこにある不動産屋。いつもの土地のメンバーならだいたい頭に入ってる。つまるところ余所者だ。 「あの、部屋を、借りたいのデス」 たどたどしい日本語でメイドさん…

月の下で踊り、森の中で歌う

少女は一人、砂漠の街で月を眺めていた。荒涼たる世界に明るく輝く月は優しく彼女を照らしていた。 彼女は手に本を持っていた。遥か異国の地、そこで森の中で歌う少女。人の前に出るのが怖くて一人で....... 少女は一人、新緑の森で風に吹かれていた。鬱蒼(…

迷い込んだ歌姫

音葉と聖は森の川辺で歌を歌ってる。聖は歌の練習として、音葉は気分転換としてたまに、いや、良くここに歌いに来る。 伸びやかな聖のソプラノボイスに合わせるように音葉が音を紡いでいく。 いつしか、その森は「精霊の森」と呼ばれるようになってしまった…

桜の頃

「おー、綺麗ですねー」 ライラが帰りに通った川沿いの土手で声を上げた。桜かあ。私はしみじみと言った。おそらくドバイにいた頃は見たこと無かったのだろう。日本のやり方を教えてあげなければ。 「日本ではね、桜を見ながら食べたり飲んだりするんだよ」 …

お嬢様と私

「あなただけはいつもこの方の味方でいてね」 私が母から受け継いだ言葉。そして、産まれたての赤ん坊の前で誓った言葉。当時、まだ五歳だったけどその時の事は今でもはっきりと覚えている。 「君に似て綺麗な金髪と青い瞳だな」 「肌の色と鼻の形はあなたそ…