狐瓜町商店街の不動産屋さん

「いらっしゃい」

 

その日、最初のお客は金髪碧眼の少女とメイドだった。

うちは商店街の端っこにある不動産屋。いつもの土地のメンバーならだいたい頭に入ってる。つまるところ余所者だ。

 

「あの、部屋を、借りたいのデス」

 

たどたどしい日本語でメイドさんが話し掛けてきた。外国人? 面倒はごめんなんだが。

 

「ああ、はい。話を聞きましょう。そっちのお嬢様も座ってください」

 

言われた少女はキョトンとした表情を浮かべた。

 

「あの、ライラ様はまだ日本語が理解できませんで」

 

なるほと。その少女、ライラという子は交渉相手ではないらしい。では条件を聞こう。

 

「あんたら、誰か保証人は居るか?」

「ホショウニン.......?」

「そうだ。なんかあった時に責任が取れる人だ」

「いえ、そのような人は.......」

 

はてさて困った。どうやら流れ物らしい。絶対になにか厄介事を抱えている。どっかのお姫様で親に望まぬ結婚をさせられそうになって家出して来たとかそういうやつだ。いや、さすがに飛躍しすぎか。それほどまでにこのライラとかいう少女は美しい。だけど、置物みたいな美しさではなくしっかりと意志を持っている様だ。

 

「予算はいくらぐらいで?」

「それが.......この程度なんだが」

 

低予算。さすがに王族とかお金持ちではなかったか?

いや、家出ならこんなものだろう。

 

「これで二人部屋か.......少し厳しいな」

「どんな所でも構いません。お願いします。たとえ、この身を犠牲にしても.......」

 

おいおい、それじゃあまるでどっかのエロ同人じゃないか。悪いが私は陵辱や脅迫には興味が無い。

 

「さすがに日本では人身売買なんかはやってないからな。そういや仕事は何を?」

「それが.......日本に来たばかりで仕事などは」

 

住所不定無職で家を借りるとなるとかなりな難易度だ。しかも、住所不定なら職に就くのも難しい。どうしたものか.......

 

「なあ、あんたら。質問していいか?」

「はい、なんでしょう?」

「なんで、ここに来ようと思ったんだい?」

「それは.......ライラ様がここがいいと仰ったからです」

 

その少女が?

そりゃあまたおかしな話だ。うちの不動産屋は女の子ウケする様なものは何も無いんだが。

 

「ライラ様がこちらから暖かい気持ちが流れて来ると」

 

その言葉を聞いて私は思わず口をあんぐりと開けてしまった。そして込み上げてくる笑い。何だこの気持ちの良さは。只者ではないな。

そうして私が彼女を見ると彼女は少し首を傾げながらニッコリと微笑んだ。

これは参った。降参だ。

 

「やれやれ仕方ない。まさか放り出す訳にもいかんしな。問題を起こさないと約束してくれるならアパートとそうだな、働き口を紹介しよう。そっちのお嬢様にもコンビニ辺りで働いてもらった方がいいかな?」

「良いのですか?」

「勘違いせんでもらおう。家賃を取りはぐれないように仕事してもらわないと困るだけだ。ちょっと連絡するからそこで待っていなさい」

 

私は受話器を手に取ってダイヤルを回した。確か、変わり者の大家がやってるアパートがあったハズだ。そこに入れてしまおう。礼金はそいつから取るか。

 

「ああもしもし、久しぶりですね。実はお宅のアパートに入居させたい人が居ましてね」

 

それが私たちの商店街の本当の始まりになるとは私は気付いても居なかった。