桜の頃

「おー、綺麗ですねー」

 

ライラが帰りに通った川沿いの土手で声を上げた。桜かあ。私はしみじみと言った。おそらくドバイにいた頃は見たこと無かったのだろう。日本のやり方を教えてあげなければ。

 

「日本ではね、桜を見ながら食べたり飲んだりするんだよ」

「おー」

「どうだい、壮観だろう。こんな景色は世界ひろしといえど日本ぐらいしか.......」

「ブラジルにもあるゾ」

「香港も小さいケドお花見出来るヨー」

 

一緒に後部座席に乗ってるナターリアと菲菲が話し出した。

 

「ライラさんだけ花見したことないですね」

「じゃあ、今カラしようヨ!」

「待つネ。そういう事なら私が腕にヨリを掛けて料理作るヨー」

「ヨーシ、じゃあナターリアは人集めて来る!」

 

ナターリアと菲菲が車から飛び出して行ってしまった。やれやれ。思い立ったら行動するそのエネルギーは見上げたものだ。ライラはあの二人ほど行動的では.......いや、そんな事はない。何しろドバイから親に反抗して逃げ出して来たのだ。よっぽどの行動力の持ち主じゃないか。

 

「ちょっと車を停めてくるから、ここで待っててくれ。ほら、アイス」

「おおー、すごいです。ライラさんの欲しいものを当ててしまいました」

 

私は仕事終わったあとにみんなで食べるつもりだったアイスをライラに渡した。

 

車を停めて戻って来るとライラはただ桜の中に佇んでいた。アイスはもう食べたのだろう。どこにも見当たらない。だが、そんな事はどうでもいい。桜舞い散る午後の川辺に恐ろしい程にライラが映える。りあむの奴がライラの事を「天使、尊い」とか言っていたが本当に天使の羽が抜けて周りに舞っている様だ。物憂げに(おそらく本人はぼーっとしてるだけだろうけど)桜の花びらを見ているライラの瞳は水晶の様に輝いていた。

 

「ぷろでゅーさー殿?」

「ああ、すまんすまん。遅くなった。随分見入っていたんだな」

「はい。とても綺麗です。パパやママに見せてあげたい」

 

今はまだ、そのときではない。でも、いつかきっとライラと一緒に胸を張ってドバイの両親に会いに行けると信じている。

 

「オーイ」

 

ナターリアが色んな人を連れてきた。いや、連れて来過ぎじゃないかな?

 

「もう、プロデューサーさん、飲むなら教えてくれればいいのに」

「遠慮しないで飲むわよ」

「シノはいつも遠慮してないゾ?」

「何この美人の集まり。ボクが最底辺じゃん。めっちゃやむ!」

「#花よりアイドル #うわばみ」

「皆、ほらもっとたのしくやるんご!」

 

最早収拾がつきそうにない。

 

「ミンナー、ご飯作って来たヨー」

 

そこに菲菲の手料理が到着。大人組はそれをつまみに持参したお酒を楽しんでいる、。

 

「ぷろでゅーさー殿ー」

「どうした?」

「いつかきっと.......」

「そうだな。その時は一緒だ」

「私も一緒だヨ」

 

ひょこっとナターリアが顔を出した。

 

「こないだはリオを見せたから今度はライラの番!」

「おおー、それは楽しみなのです」

 

そして二人はしばらく桜を見ていたのでした。