きっかけはナターリア

「ナターリアだヨ! よろしくネ」

その子が転校してきたのはカラッと晴れた青空の五月だった。褐色の肌、人懐っこい笑顔、キラキラ輝く太陽みたいな子だった。

私とは大違い……

「席は……そうだな山口の隣にしよう」

先生が私の名前を呼ぶ。

「は? ふぁい!」

変な声が出た。

「私、ナターリアだヨ!」

「あ、うん、山口あかりです。よろしく……」

正直苦手だ。どうしよう。

「あかりカ! 光ってるナ!」

本当にどうしよう。

 

「あかり!」

ナターリアに呼ばれた。

「えっと、何?」

「学校案内してくれないカナ?」

先程からクラスメイトに囲まれてたハズだけど……あれ?

「あの、他の人たちは?」

「ミンナ部活だっテ。あかりはヒマソーだったからナ」

あー、うん、彼女たちはリア充だ。忙しいに違いない。

「分かった。案内してあげる。運動部からでいい?」

奇妙な道行きが始まった。

 

「女子バレー部からね」

「ンー? あ、アブナイ!」

バシィ!

飛んできたボールを弾き返すナターリア。

「あ、ありがとう」

「ナターリアちゃんすっごーい!」

「すぐにレギュラー取れるんじゃない?」

「ウチの部入りなよ!」

私のお礼の言葉をかき消しつつバレー部員達がナターリアを囲んだ。

「アハハ、それも楽しソウ。でも……」

くるっとバレー部員に向き直る。

「ナンデミンナあかりに謝らないんダ?」

え?

「危険なメにあったんダ。ナターリアが取らなきゃケガしてたかもナ」

ざわざわ……

「そうだね、ゴメンね、山口さん」

申し訳なさそうにバレー部の子が言った。この子は知ってる。同じクラスだものしかも女子のリーダー格だ。

「仲良しがイチバンだヨ!」

ニコッと笑う。とても魅力的な笑顔だ。

体育館に別れを告げて色々見て回った。

サッカー部

「ナターリアもやる!」

「ダメだよ、男子だけなんだから!」

水泳部

「水着キツいな……」

「それ、一番大きいサイズだよ」

バスケ部

「ボール持ったら走りたくなっタ!」

「3歩以上は反則!」

ひたすら体力を消耗した……。

「あとは文化部だね……」

「ウン、デモ、遅いから明日にしヨ」

「そうだね……」

私ももう限界だった。

「それじゃあまたアシター」

「うん。バイバイ」

あれ? 普通に挨拶できてる。ナターリアちゃんのペースに巻き込まれちゃった。

その日は疲れからかぐっすり眠れた。

「オハヨー!」

ナターリアの元気な挨拶が私を出迎えた。

「うん。おはよう」

私もニッコリ返す。

「あ、山口さん、おはよー」

いつもと違う光景がそこにはあった。

あの、バレー部の子が話しかけてきたのだ。

「昨日はゴメンねー。あれからナターリアちゃんとずっと一緒だったんでしょ? 大変だったんじゃない?」

「え、ああ、うん、まあね」

クスッと苦笑い。

「……へぇ、山口さんってそんな風に笑うんだね。もっと話してみたいかも。ねえ、あかりって呼んでいい?」

え?

「い、い、いいけど……」

何かが始まった音がした。それを運んで来たのは褐色の太陽。その眩しい輝きは今も私を照らしていた。

「あかり、今日は文化部ダゾ!」