アリス
「どうして……どうして戦わないといけないの!」
アリスは叫んだ。目の前に居るのはアリスの影、シャドウアリス。昨日は二人でお菓子を食べながらどんなイタズラしようか考えてた。それなのに……
「目を覚まして!」
アリスの声に彼女は答えない。真っ赤な目が爛々と光り、アリスを覗き込む。
「はじケろ……」
彼女がステッキを振るうと衝撃がアリスを襲った。
「めちゃクチャに、してアゲル」
ウィークバルーン! アリスが咄嗟に飛び退いと所に禍々しい煙が立ち上る。
「いじめてアゲヨウ」
いつも聞きなれたセリフ。でも、その言葉の中にある「冷たさは」アリスの芯を凍りつかせた。
「返して……私の影を、大事な影を返して!」
アリスの頬を涙が伝う。目の前が滲む。
「いジわるサんは、あっちイけ」
言葉と共にアリスの身体は重くなった。何かがのしかかってるようだ。
「うぐっ!?」
迷いながらも身体は勝手に動く。直ぐに回避行動をしてドローショットで牽制しながら森に隠れてかくれんぼを使う。
「道連れハ……いっパい居た方がいいヨネ?」
アリスを見失った彼女は手当り次第に破壊を始めた。テーブルもティーポットも大きな時計も……
どうして、どうして……アリスの頭の中はそんな事でいっぱいだった。
ヴィラン化……そう言えば誰かがそんなことを言っていた気がする。あれはマッドハッターだったろうか? 心が闇に染まった時にヴィランの影は忍び寄ってくるという。という事はシャドウアリスも何かを抱えていたのだろうか? 私にすら言えない何かを……だとすると、嫌だけど、なんとかしないといけない。だって、私は、私たちはその為に居るのだから。
アリスの心の中には様々な思いが渦巻いていた。
「待って!」
アリスは唇を噛み締めながら言った。その目の涙はまだ止まっていない。
「本気で……やっつけてやるんだから!」
そして死闘が始まった。シャドウアリスの攻撃パターンは分かっている。だが、二人とも「意表をつく」戦い方が本領である。いわゆる騙し合い。そして、騙すのが一枚上手なのがいつものシャドウアリスの方だった。
ドローショットの起動をわざと曲げてまた戻す、先読みして行動する先にボムバルーン、おにさんこちらでの背面取り……何度も何度も傷つきながらアリスは立ち向かった。大切な物を取り戻すために。
「あナたに罰ゲーム♪」
「あうっ!」
びっくりさせちゃえが直撃して、アリスは吹き飛んで倒れた。
「ゆっクりおやスみ。じゃ、マたね」
シャドウアリスが振り上げたステッキでトドメを刺そうとした時、アリスは苦し紛れにステッキを振った。
「私を怒ラせなイ方がいイと思ウな……」
ニヤリとサメのように笑うシャドウアリス。振り上げたステッキはしかし、下ろされることは無かった。
「この……道を……進むのは、私なんだから!」
アリスの撃ったドローショットは大きく迂回してシャドウアリスの背中に突き刺さった。そして……
「夢と不思議のおもちゃ箱、ぜーんぶひっくり返しちゃう!」
起死回生のワンダースキル。不意打ち気味の一撃にシャドウアリスは直撃し、吹き飛ばされて倒れた。
「かはっ」
無理をした代償は大きく、アリスは体力と魔力の殆どを失っていた。それでも、アリスは身体を引きずりながら彼女に近づいた。
「ヤダヤダ、こんなのヤダよぅ!」
アリスは気絶したままの彼女を抱き締めると大粒の涙を零しながら抱きしめた。もう二度と放さぬように、離れないように……