豆まき

「日の本には豆まき、という風習があるそうですわ」

リンちゃんはアリスのお茶会でカフェフラペチーノを飲みながらみんなに言った。

「へえー、それって面白いの?」

アリスがスコーンにクロテッドクリームを塗りたくりながら聞く。

「なんでも鬼役の人に豆をぶつけて遊ぶそうなのです。鬼役は大人の男の人がやるそうですわ」

リンちゃんの説明にミクサがポツリと呟いた。

「鬼、なら温羅さんが居るよね……」

「それっていいかも!」

アリスが目を輝かせながら反応した。

 

「ワシ、鬼役、ヒキウケタ」

ニッコリ笑って温羅は言う。心根の優しい鬼だ。人から頼まれれば嫌な顔をせず二つ返事で引き受けてしまう。ましてやそれが子供たちなら尚更である。

「マメ、用意シトイタ。コレ、使エ」

ぶつけられる豆まで用意する始末である。

「ワシ、玄関カラ入ル。部屋入ッタラ思イ切リブツケロ」

そう言って温羅は玄関に向かっていった。

 

そして、その時は来た。温羅は玄関から入り居間へと入り込んだ。

「ウラララララ、鬼ダゾー」

まず、今に入った温羅を襲ったのはリンちゃんの一撃だった。

「ていやー、ですわ!」

パラパラと豆がぶつかって弾ける。

「モット強クテモイイゾ」

その言葉に後に控えていたミクサの目が光った。次の瞬間、飛んできたのはフレイムショットに包まれた豆。

「これならもう、寒くないよね?」

2月上旬。暦の上では春とは言ってもまだまだ寒い。きっとミクサの優しさなのだろう。豪火球に包まれた豆はパチパチと音を立てていた。

リンちゃんは「えい、えいっ」とずっとぶつけ続けている。

そうこうしていると

「こんな体験、した事ある?」

ボムバルーンと共に飛んでくる豆。勿論豆には毒が染み込んでしまっている。

「毒ハアブナイ」

緊急回避で避ける。そこに……

「びっくりさせちゃえ!」

豆がマスごと飛んできた。

「グハァ」

非常に痛そうな叫び声が聞こえた。

追い討ちをかけるかの様に天を影が埋めつくした。

「さあ、みんなで燃え上がりましょう、サンハイ!」

「空からくるよ、大きな赤い流れ星……」

メテオの合唱。見事なハーモニーをたたき出したそれは温羅の頭上へと降り注いだ。

「ダ、大丈夫。ワシ、頑丈……」

息も絶え絶えに言う言葉は最早……

「こうなったら、もうどうなっても知らないんだから!」

豆さえ投げる気のないシャドウアリスの容赦ない踏みつけに温羅の意識は途絶えた。

 

「「「「ごめんなさい」」」」

目を覚ました温羅を囲んでいたのは子供たちだった。

「大丈夫。ワシ、頑丈。痛クナカッタ」

涙目になりながらも温羅は平気なように見せた。

ワンダーランドは今日も平和である。